岡部記念館「金鈴荘」は、明治初期に岡部久四郎が建設した接客用の別荘として10年余の歳月を費やして完成させたものと伝えられている。その後割烹料理店「金鈴荘」となり、昭和63年には真岡市が借り受けて記念館としたものである。
「金鈴荘」は、地元産の磯山石による石塀で囲まれた広い日本庭園の北西隅に南面して建てられている。外壁を防火目的の土蔵造とする点が大きな特徴で、北側のみ黒漆喰塗、その他をなまこ壁の仕上げとし、南北の窓などには本格的な観音開の防火扉(銅板貼)を設けている。本格的な座敷を土蔵造りとすることは明治期になって各地で行われるようになるが、より堅牢ななまこ壁に関しては北関東にはほとんど普及しなかったことが知られており、その点でも貴重な遺構である。内部は主要室にすべて座敷飾を備えた格調高い書院造風の座敷で構成されており、特に目に付くのは豊富な唐木類と、ふすま絵や屏風、扁額、掛軸などの華麗な美術作品である。これらの作者には地元の文人墨客が含まれており、当時の豪商と美術家の関係を知る上でも興味深い。
また、建物の一部を除いてはほぼ創建当時の状態を留めているとみられ、保存状態も良好である。日本庭園や周囲の石塀と一体的に保存されていることと併せて、貴重な近代和風建築の遺構と言えよう。
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