校内散歩

校内散歩32 「桜の更新」

校内散歩32「桜の更新」 女流作家の幸田文の『木』という著書の中に、「北海道の自然林では、エゾ松は倒木のうえに育つ」と始まる、倒木更新の話がある。厳しい大自然の中で育つエゾ松は、老いれば倒木となり、その樹幹の上に若い命を育むというのだ。命の輪廻を描く、非常に印象的な名文である。
 本校の桜は現在86本。実直に働き通してきた老人の節くれ立った手のような、こぶだらけの幹が目立つ桜も多い。教室棟の前の8本の桜も年老いて、さらに倒れる危険さえ出てきたので、同窓会の援助を得て更新することとなった。もちろん町中では倒木に芽吹くのを待つことはできないので、新しい木を植えるのではあるが。
 工事をする朝には事務長さんがお酒をまいて、引退する桜たちにお礼の心を示してくださった。みんなに見送られて古い桜は若い桜に場所を譲る。若木もちゃんと同じく8本、植樹された。来春には、若い花をつけ始めるはずである。
 学校とは、こうして更新を繰り返す場なのだな、と改めて思う。