鉢の木物語
鉢の木物語〔佐野市(さのし)〕

今から七百年ほどの昔です。
雪の降る道を一人の旅の僧が山本の里(現在の佐野市)を歩いていました。
この旅の僧こそ、鎌倉幕府(かまくらばくふ)の執権(しっけん)・北條時頼(ほうじょうときより)が身をやつした姿だったのです。
やがて僧は、貧しそうな一軒の農家を見つけました。
二人暮らしの貧しい家で、その日その日の暮らしにも困っている夫婦でした。
夜も更けるにしたがって、薪もなくなりいろりの火もとだえがちです。
主人は、鉢植えの木を持ってきて、斧(おの)を振り上げました。
見ず知らずの旅の僧に心温まるもてなしをしてあげたのでした。
この主人は、鎌倉殿に何か起きればだれよりも早く鎌倉に駆けつけるという心構えでした。
年が明けて春、鎌倉の一大事にいち早く駆けつけたこの武士に時頼は褒美(ほうび)をあげました。