那須与一
「平家物語」(へいけものがたり)に見られる与一の活躍-(屋島の戦い)(やしまのたたかい)-

平家の陣営から一そうの小舟が近づいてきました。
舟の舳先(へさき)には、真っ赤な地に金色の日の丸を染めた扇を挟んだ竿が立てられています。
見ると、美しく着飾った女性が手を振って源氏を手招きしています。「この扇を射てみよ。」というしぐさです。
平氏にとっては、源氏が扇を射落とすことができなければ、「勝ち運は我にあり」という占いなのです。

これを見た源氏の大将源義経(みなもとのよしつね)は、与一に扇を射るように命じました。
与一は源氏の武士の中で、弓の名人といわれるほどの技を持っていますが、敵味方の注目する中で、波に揺れ動く小舟の上にある扇を射落とすことは大変にむずかしいことです。もし失敗すれば平氏の軍勢を勢いづかせることになってしまいます。

与一は一度は辞退したものの、大将の命令であれば弓を引かなければなりません。
もし射落とせなかったときは、その場で自害する覚悟をきめて、馬を海へ進めていきました。
心を静め、故郷下野の神仏(しもつけのしんぶつ)に念じつつ矢を放つと、ねらいはたがわず扇は空に舞い上がり、春風にもまれて、やがて海面に落ちました。
赤色の扇は夕日のように輝いて、白波の間をただよっています。
この光景を見ていた敵味方ともに深く感動し、船上の平氏は船べりをたたき、島にいた源氏も鞍(くら)をたたいてほめたたえたといいます。
平氏が占いに期待していたこととは逆の結果になってしまったので、軍勢の気力は一気におとろえ、やがて壇ノ浦の戦い(だんのうらのたたかい)にも敗れ、平氏は滅亡しました。

※ 平家物語を読んで、与一の活躍をさらにくわしく調べてみましょう。