小高生へ(11)

「人間万事塞翁が馬」
 ~「負けない」でいることが大事

 「校長室より」のページから、生徒の皆さんへメッセージを送っていきたいと思っています。感想や要望がありましたら、気軽に声をかけてください。

 「人間万事塞翁が馬」(にんげんばんじ さいおうがうま)という漢文を知っていますか? 私は、高校時代に古典の授業でこの漢文を学びました。こんな話です。

 昔、中国の国境近くに、老人が住んでいました。あるとき、老人が飼っていた馬が隣国に逃げてしまい、周囲の人々はこれを気の毒がりました。しかし老人は、「どうしてこのことが福にならないだろうか。いや、福になるだろう。」と言いました。果たして数ヶ月後、逃げた馬が足の速い馬を連れて帰ってきました。
 周囲の人々は祝福しましたが、老人は「どうしてこのことが禍(わざわい)にならないだろうか。いや、禍になるだろう。」と言いました。老人の家には良馬が増えましたが、老人の息子は乗馬を好み、馬から落ちて足を骨折してしまいました。周囲の人々は見舞いましたが、老人はまた、「どうしてこのことが福にならないだろうか。いや、福になるだろう。」と言いました。
 1年後、隣国が大軍で攻め入ってきました。若者たちは戦いに駆り出され、10人のうち9人が戦死しました。老人の息子は、足の怪我のために(戦いに出ることなく)命を落とさずにすみました。

 高校時代の私は、この漢文に対してあまり共感やリアリティーを感じることができませんでした。教訓めいた結論に強引にこじつけた昔話(フィクション)としか思えなかったというのが、正直なところです。でも、(高校時代から40年余りを経過した)今は、とらえ方が少し変わってきました。何が良くて、何が良くないということは、そう簡単に決めつけることはできないと考えるようになったからです。
 誰でも失敗や挫折はしたくないし、マイナス(禍)と思われる出来事にもぶつかりたくありません。しかし、失敗や挫折の経験が全くなく、不運に遭ったこともないという人はきっといないし、そうしたことがあるからこそ、私たちは「学ぶ」ことができるのだと思います。大切なのは「失敗、挫折、不運にどう向き合うか」であり、それが最終的に人生の意味を左右するのではないでしょうか。ここで、若い皆さんに勧めたいのは、「長い時間の流れ」の中で物事を考える(想像する)ということです。「人間万事塞翁が馬」は1~2年の間に起きたと思われるエピソードですが、私たちの人生はもっと長く続き、ある出来事が生じた当初はマイナス(禍)だと思われたけれども、その後の紆余曲折の中で「結局はあれでよかったのだ」とプラス(福)に転ずるというのは、実はよくあることなのです。ただ、プラスに変わるタイミングは様々で、数日後だったり、数ヶ月後だったり、数年後や数十年後のこともあります。つらいことや寂しいことがあっても、一見平凡に思われる日々を「かけがえのない」ものととらえて過ごし、自分と自分に縁ある人たちを大切にして、思いやりをもって生活していくと、ある時ふと光が射してきて、道が拓けたり視界が広がったりすることがあります。泣きたいような時があったとしても、「負けない」でいることが大事です。心優しい小高生の歩む道は、明るい光に照らされ、美しい花が多く咲いているはずです。微笑みを忘れず、朗らかに進んでいこう!!