日誌

突然ですが、室町時代のなぞなぞです。(島田桂先生)



『母には二たびあいたれども 父には一度もあわず』 ← さて、これはなーんだ?

 

答えは「くちびる」。なぜなら、室町時代の人々は「母」を「ファファ」もしくは「パパ」と言っていたから。

 

え、どういうこと?と思うでしょう。現代では「はは」の発音も、「ちち」の発音も、くちびるは1度も合わないですよね。これは国語学上貴重な資料といわれ、この時代の「は」行音の子音が「h」でなかったことの証拠の一つとされています。「は」行音の子音は奈良時代以前はpだった。それが奈良時代にはφになっていた(日本人の発音する「ファ」の子音はφであって、fではない)。さらには江戸時代初期にhに転化した。つまり、「母」を「パパ」→「ファファ」と発音していたということなのです。母なのにパパ、なんて笑っちゃいますよね。

 

これは私が1年間休職して大学院にいた時に、「音韻論」の授業で学んだことです。目を開かれるような学びが多くあった中の一つで、学問の神髄を教わった気がした瞬間でした。つまり、学問や研究を極めようとする時は一度自分の狭い固定概念から離れ、資料や研究対象に真摯に向き合う、ということですね。そこから新たな発見も生まれるのです。そうは言っても「ただ授業を受ける」だけの高校生には無理、と思うかもしれませんが、このコロナ禍で「学校とは、学びとは何か」と、誰もが一度は考えたのではないでしょうか。定期テストの範囲を丸暗記する勉強方法(長期記憶になるならこれもよし、ですが)だけではなく、「あぁ、そうなんだ」と新鮮な驚きを感じるような学び体験を皆さんにしてほしいと願っています。「カチリ」とピースがはまるような瞬間を味わうと「勉強って楽しい」と思えます。「素直な心」と「探究心」を持って学びましょう。学校の勉強に限らず、何かを学んだ時の新鮮な驚きは人生の喜びになると思うのです。

 

英語科・島田 桂

岩波文庫『中世なぞなぞ集』所集
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