2025年1月の記事一覧

小高生へ(19)

「夢を叶えたKさん」第3回

 「校長室より」のページから、生徒の皆さんへメッセージを送っていきたいと思っています。感想や要望がありましたら、気軽に声をかけてください。

 Kさんについての続きです(事前に本人の許可を得ています)。

 Kさんが大学4年生だった年の秋、Kさんの通っていた特別支援学校から、私にひとつの連絡がありました。

 その連絡は、Kさんが栃木県の中学校英語の教員採用試験に合格したという知らせでした。この時の私の驚きと感動は、一言では言い表せません。正直なところ、厳しいのではないかと思っていました。階段の多い中学校の建物を見る度に、Kさんの夢との隔たりを感じずにはいられませんでした。でも、Kさんは採用試験に合格しました。Kさんは夢を叶えたのです。なんて素晴らしい!!

 生徒が夢を実現させること・・・。教師にとって、これにまさる喜びはありません。「生徒の喜び」を「我が喜び」とできることが、教師の仕事の醍醐味だからです。そういう嬉しいことが、教員生活の中では多くありますが、Kさんの夢が叶ったことは、私にとって本当に、本当に、大きな喜びでした。そして、Kさんは私に教えてくれたのです、「夢は叶う」と。夢は叶うのです!!

 私たちは、人生において何らかの課題を抱えていないことはありません。誰もが「人生の宿題」を抱えて、日々の生活を送っています。全てが意のままだという人間は、きっといないはずです。誰もが失敗や挫折を経験し、失意の思いにとらわれたことがあると思います。たとえ成功者に見えても、人に見せない努力や将来への不安のために、悩んだり苦しんだりしているのではないかと推察します。つらいことや、納得いかないことは、たくさんあります。でも、自分だけがそうなのではないことを、忘れてはいけないのではないでしょうか。Kさんは、自らの障がいについて「自分にとってマイナスではなく、障がいがあったからこその自分なのだ」と言いました。Kさんは、「自分の障がいを『盾』にしてはいけない」と言って、世の中への不満を口にすることはありませんでした。
 私たちは、誰もが傷つき、誰もが悩みながら、生活しています。私たちは、一人ひとり異なった個性をもち、それぞれの課題に向き合いながら、生きています。だから、私たちは互いに理解し合い、寄り添い合い、尊重し合い、励まし合い、高め合いながら、学びを重ね、努めていくことが大切です。この社会にある多くの悲しみや苦しみをなくし、皆がそれぞれに幸せに暮らしていくことができるように、知恵を寄せ合っていくことで、よりよい在り方を求めていけるはずです。
 Kさんの存在は、Kさんが教師として勤める中学校で、多くのことを生徒たちに教えてくれるだろうと私は信じています。自分の気持ちが弱くなりそうな時、私はKさんのことを思い出します。Kさんが、足の障がいに負けないで、それを受け入れ、人生における意味すらも見出し、強く生きてきた、そして、教師になるという夢を叶えて、今も立派に生活されていることを、いつまでも忘れず、尊敬の念を抱き続け、私もKさんに負けないように、何とか「今日」という日を乗り越えていこうと思います。

 夢は叶う!! Kさん、ありがとう!!

 Kさんのお話を、皆さんはどのように受け止めてくれたでしょうか。よかったら、感想を聞かせてください。

小高生へ(18)

「夢を叶えたKさん」第2回

 「校長室より」のページから、生徒の皆さんへメッセージを送っていきたいと思っています。感想や要望がありましたら、気軽に声をかけてください。

 Kさんについての続きです(事前に本人の許可を得ております)。

 Kさんの面接練習の時に、私は障がいについての2つの質問をKさんに投げかけました。
 ひとつは、「あなたは自分の障がいとどのように向き合ってきましたか?」、もうひとつは、「もし働くことになったら、どんなことに配慮してほしいですか?」という質問です。
 最初の質問に対してのKさんの答えは、前回記しました。

 次の質問に対して、Kさんは即座にこう答えました。「どうか、他の方たちと同じように働かせてください。障がいを『盾』にしてはいけないと考えています。他の方々と同じように働きたいです。」この答えを聞いて、私ははっと胸をつかれ、しばらく言葉が出ませんでした。もし私がKさんで、この質問をされたら、きっと職場に対して何かしらの配慮を求めただろうと思います。もしかしたら、それ以上に、障がい者である自分を苦しめている世の中への不満を強く訴えたかもしれません。しかし、Kさんは何の配慮も求めず、特別扱いせずに働かせてほしいと、きっぱり答えたのです。Kさんの純粋で、精神的な美しさに、私は心打たれました。

 Kさんは就職試験の二次に合格しました。大学に進学するよりも、Kさんの障がいを理解したうえで採用したいという職場に就職した方が、Kさんの将来のためにはいいかもしれないと私は思いました(その職場からは、Kさんにぜひ就職してほしいという電話までありました)。大学に進学しても、Kさんの夢である中学校の英語教師になれるという保証はありません。また、教師以外の職業に就職できるかどうかもわからないのです。Kさんの進路指導をする他の先生たちも同じように考えて、Kさんにもそのことを伝えたようです。しかし、大学に進学し、中学校の英語の先生になるという夢を諦められないKさんは、就職はせず、大学入試を受けることを決めました。

 Kさんは、希望する大学に見事合格することができました。特別支援学校を卒業したKさんは、大学に入学しました。そして、中学校の英語の先生になるために学びながら、サークル活動等にも取り組んでいました。(Kさんが所属する音楽サークルの発表会を、一度見に行ったことがあります。他の大学生とともに活き活きと演奏するKさんの様子から、大学生活を楽しんでいる様子が想像され、嬉しく思いました。)
 Kさんが大学に入って1年後に、私は高校に異動となりました。その高校には教頭として3年間勤務しましたが、その3年間はまさしくコロナ禍の3年間でした。Kさんの大学生活も2年生以降はコロナ禍にあったということになります。時々、Kさんはどんな大学生活を送っているだろうと思うことがありました。また、地域の中学校に訪問することがある時などは、階段の多い中学校の建物を見ると、Kさんの夢は叶うだろうかという気持ちを抱かずにはいられませんでした(Kさんは足の障がいのために、階段を利用することは難しいのです)。

 Kさんが大学4年生だった年の秋、Kさんの通っていた特別支援学校から、私にひとつの連絡がありました。

 その連絡は・・・、次回に記します。