2020年3月の記事一覧

式辞

      式  辞

 今朝はなお冷たい雨に冬の名残を残すものの、梅花の香り漂い、春の訪れを感じさせる初春の令月、気淑く風和ぐ今日の佳き日に、PTA会長 石川さやか様、同窓会長 阿部真一様の御臨席を賜り、第七十二回栃木県立鹿沼高等学校卒業式を挙行できますことに感謝申し上げます。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、在校生抜きの異例の卒業式となってしまいましたが、開催すら危ぶまれていたことを考えると、こうして実施できたことを喜ばしく思います。
 ただいま卒業証書を授与した卒業生の皆さんは、三年前の入学式で、私が入学を許可して以来、勉学はもちろん、様々な活動に真摯に取り組み、人間として大きく成長しました。
 この壇上から今また、皆さん一人ひとりの名前を聞きながら、その顔を見ていくと、三年前、あどけない瞳で私の目を見つめていた姿が思い出され、胸に迫るものがあります。
 よくぞここまで成長したものと感じているのは私だけではないでしょう。
 この三年、決して平坦な道のりではなかったことと思います。
 校長室からは、朝な夕なに皆さんの登下校の姿が見られます。そうすると、いつもは前を向いて笑顔で登下校するのに、今日はうつむき肩を落としている。心配なことがあるのかな。などと思うことがありました。
 そのような日々も乗り越え、今日の日を迎えられたことを心より祝福します。
 入学式で私は、本校の校訓である「至誠 努力 奉仕」を常に意識し、「何かことを為すにあたって、『真心を尽くすことになるのだろうか?』『これは努力と言えるのだろうか?』『これは奉仕にあたるのだろうか?』と考えて行動してほしいとお話ししました。
 これに皆さんはよく取り組み、至誠、努力、奉仕の精神を体現する人物となりました。この三つを、これからも、人生の指標としてことにあたってください。
 この三年の間に、社会で多くの変化があったように、皆さんにも変化があったことでしょう。私にもいくつかありました。その一つが、日光の景色を見る目と評する言葉です。
 かつては、男体山ばかりに目がいき、男体山の頂に雪が積もったと言っていましたが、今は、男体を含む日光連山に目を向けるようになりました。
 それは、宇都宮の自宅から日光を眺めると男体のみが際だって見えていたため、日光の山の姿と言えば男体山というイメージだったのですが、鹿沼に通いながら見る日光の美しい姿は、男体のみによって作られるものではないと感じるようになったからです。
 確かに男体山の荘厳さは他に抜きんでたものがあり、単体としての美を有しています。しかし、周囲の山々との調和によって一層の美しさが加わるように感じられたのです。
 即ち調和の美というものがそこにあると感じたのです。
 調和の美、ビューティ オブ ハーモニー。
 ビューティフルハーモニーと言い直せば、
外務省が言う「令和」の英語訳となります。
 皆さんが進んでいく新しい時代は「調和の美」を追求していくことが大切なのではないでしょうか。
 独りよがりで、「自分は、自分は」と自分だけを前面に出して他を顧みない人は、今でも社会の中で高い評価を得ることはできません。まして、これからの社会は「協働」することが重要だと言われています。
 自己の個性を失うことなく、他の個性と調和し合い、一人では作り出すことの出来ないより高度なものを生み出していく。
 更に、ここ数日の動きに見られるように私たちはいつ何が起こるかわからない世界に生きています。そして、未だに非科学的な噂や情報によって混乱が生じています。
 このような社会にあって、鹿沼高校で科学教育と情報教育をしっかり受けた皆さんが果たす役割はいよいよ増しています。皆さんがリーダーシップを発揮されることを期待しております。
 保護者の皆様、お子様の御卒業おめでとうございます。三年前私は、「皆様にとって何よりの宝であるお子様方を本日確かにお預かりいたしました。私どもはお子様方が充実した学校生活を送り、立派に成長し、『至誠 努力 奉仕』の精神を体現した人物となってお返しできるよう、教職員一同力をあわせて努力していきたいと考えております。」とお話ししました。
 まさに今日、そのお約束を果たします。立派に成長したお子様方を皆様のもとにお返し致します。
 私どもの努力が足りなかった部分も多々あろうかと思いますが、保護者の皆様の御協力を得て、今日の日が迎えられましたことに感謝申し上げます。
 最後に、卒業生の皆さん。
 この三年間、皆さんの明るい笑顔と元気な挨拶の声、皆さんの存在が私に活力を与えてくれました。
 私にとって皆さんは、指導の対象だけではなく、共に鹿沼高校を作っていく、ビジネスパートナーでもありました。ここに皆さんに感謝の言葉を申し上げ式辞の結びとさせていただきます。
 ありがとう。
 令和二年三月二日
 栃木県立鹿沼高等学校長  笠原 紀昭