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2019年4月の記事一覧
鵬(ほう)の視点 ~入学式式辞より~
半世紀前、アメリカの宇宙船アポロ11号が、月面に到達したとき地球以外の天体に立った初めての人類がニール・アームストロング船長です。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ。」という言葉が有名ですが、その偉業が達成されたときの次ような言葉が残っています。
「平和を望む人々、探究心と好奇心を持って 未来を目指す人々、彼らを代表してここに立っていることを、とても光栄に思います。」
もしかすると、「探究心と好奇心を持って未来を目指す人々」という 全人類的な視点は、別の天体からこの青い地球を眺める、という新たな視点の獲得から生まれたものなのかもしれません。皆さんの「探究心と好奇心」という知性の翼を、この宇都宮東高等学校、附属中学校で存分に育て欲しいと思います。
さて、アポロ11号から一世紀前には、ジュール・ヴェルヌによる『月世界旅行』が刊行されました。さらに遡ること約三世紀。シラノ・ド・ベルジュラック作の『日月両世界旅行記』が刊行されました。
さらに、遡ること二千年、中国の思想家「莊子」は、想像上の大鳥である「鵬(ほう)」について次のような予言的な言葉を残しています。
天の蒼蒼たるは其れ正色なるか。(天が青いのは空そのものの色なのだろうか。)
其れ遠くして至極する所なければか。(それともどこまでも果てるところが無いから青く見えるのか。)
其の下を視るや、亦是くの若くならんのみ。(九万里の彼方に舞い上がった鵬が、その視点から下を見るならば、地上は、空と同様に青く見えているに違いない。)
どんな偉業も「想像すること」あるいは「夢見ること」無しには誕生しないものなのかもしれません。
次の時代「令和」では、間違いなく人工知能(AI)や遺伝子工学などの先端科学が劇的に進化し、人類は次の一歩へと歩み出すでしょう。産業や生活が一変するだけではなく、そうした技術を使って人間が何を求めるべきなのか、あるいは、そもそも人間とは何者なのかという、本質的な問いが私たち突きつけられてくるでしょう。いずれにせよ、皆さんが将来専攻するであろう学問は、それが何であろうとも、人類の次の一歩につながっているはずです。宇都宮東高等学校、附属中学校で、自分自身の関わり方を探して欲しいと思います。
アームストロング船長は、次のような言葉も残しています。「私たちが月に行くのは、『挑戦(チヤレンジ)する』ということが、人類の根元的な性質であるからだと思います。それは、人間の魂の中で 奥深くにある性質です。私たちは挑戦(チヤレンジ)をせずにはいられないのです。」
この「挑戦(チヤレンジ)をせずにはいられない性質」もまた、皆さん一人一人の心に息づいているはずです。
失敗をしないためには挑戦をしなければいいわけですが、自分ら挑戦すること無しに、成長や成功はもたらされません。特に、「学校」という空間は、「失敗することの許される場所」むしろ「チャレンジして失敗することが求められる場所」であるはずなのです。
(平成31年4月5日 入学式式辞より)